「同一労働同一賃金」の実現を目指して 有識者検討会の設置へ

日本的雇用システムから、同一(価値)労働同一賃金原則に基づいた雇用システムへ

安倍首相は、2016年通常国会冒頭の施政方針演説(1月22日)で、同じ業務内容であれば賃金に差をつけない「同一労働同一賃金」の実現を目指すと表明し、その後、2月23日の
第5回一億総活躍国民会議で、法改正の準備や、どのような事例が不当な賃金格差に該当するかを具体的に示すガイドライン(指針)の早期策定に向けた有識者検討会の設置を関係閣僚に指示しました。

同一労働同一賃金とは、正社員・非正社員を問わず、また性別、年齢別、国籍、障害の有無などに関わらず、仕事内容に応じて賃金を支払うというもので、欧州諸国等で定着しています。日本でも、パートタイマーや派遣労働者等非正規労働者が全体の4割近くになり、正規労働者と非正規労働者の殊遇の格差是正が大きな政治課題になってきています。

安倍首相の指示を受けて、厚生労働省では、近く専門家による検討会を設け、指針づくり等に着手し、労働政策審議会(労使と学識経験者からなる厚生労働相の諮問機関)の議論を経て、2016年度中にも、何らかの方策が導入される見通しになっています。現行のパート労働法でも正規社員とパートなどの待遇に差を付けることを原則禁じていますが、規定があいまいなため実効性が乏しいものでした。今回の指針では、具体的な禁止事項を例示して働き手の待遇の差を極力なくすとしています。

日本では、長期雇用システムの下、年代別生計費に応じた年功賃金が定着しています。この年功賃金は、企業内での人材育成重視とも不可分です。すなわち、若年時での集中的訓練期では、賃金は労働生産性を下回り、中堅期では逆に労働生産性を下回る賃金により、企業は若年期の訓練投資を回収するというものです。こうした日本的雇用システムの下では、厳密な同一労働同一賃金の実現は困難です。政府も、資格や勤続年数、学歴などで賃金に差を付けることは容認する方向です。

結局、徐々に、しかし確実に、同一労働同一賃金の世界に近づくことが適切です。具体的には、第1に、若年期での教育訓練費用を企業が回収し終える期間を短縮し、40歳以降賃金=労働生産性の賃金体系を実現し、第2に、職務、勤務地、労働時間の一部ないし全部が限定される限定正社員を活用し、第3に、通常の正社員にも、ワークライフバランスの積極的推進を図り、第4に、職業能力の「見える化」(職業能力評価の広がり)と職業訓練の広範提供を図る、こうした総合的対応に取り組む必要があります。

第1、第2の取組みにより、典型的な日本的雇用システムの世界は大きく縮小し、第3の取組みで、正社員の過剰労働問題と非正社員の不公正処遇問題が軽減し、第4の取組みにより、職業能力の比較がしやすくなり、非正規労働者等の能力開発の促進が期待されます。