改正労働者派遣法が成立しました

改正労働者派遣法が2015年9月12日、自民、公明両党などの賛成多数で成立し、9月30日から施行されました。「ひらくナビ50」では、6月19日の衆院本会議で可決された段階で紹介しましたが、改めて紹介します。

労働者派遣法の見直しは、安倍政権の成長戦略の重要課題として昨年(2014年)3月に最初に国会に提出されましたが、与野党の対立が激しかったこと等から、2回の廃案を経て、1年半後の本年9月12日に成立しました。

労働者派遣法の見直しについては、衆議院を通過した6月の時点で一度紹介していますが、
大変重要な事項ですので、改めて紹介します。
詳しくは、厚生労働省のサイトをご覧ください。

1.労働者派遣事業は、許可制に一本化されました。

労働者派遣事業は、これまで特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業に分かれていました。特定労働者派遣事業は、派遣会社が常用雇用している労働者を企業等に派遣するものですが、雇用関係が継続するので事業実施は届出でいいとされていました。他方、一般労働者派遣事業は、派遣で働こうとする人が派遣会社に登録を行い、派遣会社に派遣先を紹介してもらい、派遣先が決まり就労を開始した時点で派遣会社と雇用契約を結ぶという、いわゆる登録型派遣のため雇用は不安定とされ事業の実施は許可制でした。

それが、本年9月30日以後、全ての労働者派遣事業を許可制に統一しました。日本の派遣会社は約8万5千事業所と、世界的に見ても非常に数が多いと言われています。悪質派遣会社とともに、リスク分担や有効な教育訓練実施に必要な基準資産額等の要件を満たさない派遣会社を排除する許可制が、派遣労働内容の改善につながることが期待されます。
(但し、施行日時点で特定労働者派遣事業(届出制)を営んでいる事業者は、3年間は「その事業の派遣労働者が常時雇用される労働者のみである事業」を続けることが可能です。)

2.期間制限のルールが変わりました。

秘書や通訳など専門技能をこなす能力を必要とする、いわゆる専門26業務については、
中間搾取等の弊害を考慮する必要がなく、正社員の雇用を奪う恐れも少ないということで、これまで期間制限がなく、他方、それ以外の業務に対しては労働者派遣期間の上限を原則1年(最長3年)とするのがこれまでのルールでした。この業務区分が分かりづらいこと等からこのルールが見直され、9月30日以後に締結・更新される労働者派遣契約では、すべての業務に対して、派遣期間に以下の2種類の制限が適用されます。専門26業務についていた者については、従来はなかった3年間の派遣期間制限が課せられることになり、3の雇用安定措置が確実に機能することが求められています。

(1)派遣先事業所単位の期間制限

 同一の派遣先の事業所に対し、派遣できる期間は、原則、3年が限度となります。派遣先が3年を超えて受け入れようとする場合は、派遣先の過半数労働組合等からの意見を聴く必要があります(1回の意見聴取で延長できる期間は3年まで)。

(2)派遣労働者個人単位の期間制限

 同一の派遣労働者を、派遣先の事業所における、「課」など同一の組織単位に対し派遣できる期間は、原則、3年が限度となります。

3.派遣元事業主は、派遣労働者の雇用安定とキャリアアップを図るため、以下の対応が義務付けられることになりました。

(1)雇用安定措置の実施

派遣元は、同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある派遣労働者に対し、
派遣終了後の雇用を継続させる措置(雇用安定措置)を講じる義務があります(1年以上3年未満の見込みの方については、努力義務がかかります。)。雇用安定措置として、以下の①を講じた場合で、直接雇用に至らなかった場合は、別途②~④の措置を講じる必要があります
【雇用安定措置】
① 派遣先への直接雇用の依頼
② 新たな派遣先の提供(合理的なものに限る)
③派遣元での(派遣労働者以外としての)無期雇用
④その他安定した雇用の継続を図るための措置(雇用を維持したままの教育訓練、紹介予定派遣等、省令で定めるもの)

(2)キャリアアップ措置の実施

派遣元は、雇用している派遣労働者のキャリアアップを図るため、段階的かつ体系的な教育訓練や希望者に対するキャリア・コンサルティングを実施する義務があります。

(3)均衡待遇の推進

派遣元は、派遣労働者から求めがあった場合、以下の点について、派遣労働者と派遣先で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るために考慮した内容を、派遣労働者に説明する義務があります。
① 賃金の決定
② 教育訓練の実施
③ 福利厚生の実施

4.労働契約申込みみなし制度の施行

派遣先(派遣受け入れ事業者)が派遣労働者を受け入れている場合、善意無過失の場合を除き、違法状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対し、派遣労働者の派遣会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたとみなされる制度です(これには、派遣労働者の承諾が必要となります。承諾した場合に派遣先は断ることができない)。以下が違法派遣に該当します。

①労働者派遣の禁止業務に従事させた場合
②無許可・無届の派遣元から労働者派遣を受け入れた場合
③派遣可能期間を超えて労働者派遣を受け入れた場合
④いわゆる偽装請負の場合

民主党政権時の2012年法改正でも、労働契約申込みみなし制度の2015年10月からの施行が規定されており、期間制限のなかった専門26業務を偽装して派遣されていた派遣労働者への多くの適用が予想されていました。しかし、今回の改正でこれまで26業務で働いていた人も他の派遣労働者同様、同じ職場で働ける期間が3年までに制限されることになりました。派遣会社が責任を持って雇用安定措置を講じないと、こうした人は失業者になりかねません。また、正社員の雇用が減少する可能性があります。

労働者派遣法改正案の付帯決議では、派遣会社が得る「マージン率」の規制や、派遣労働者の直接雇用に消極的な派遣先への指導等を求めていますが、決議案の可決を受けて、塩崎厚生労働大臣は「付帯決議の趣旨を踏まえ適切に対処していきたい」と発言しました。法改正により、派遣労働者の雇用がより安定化するのか、それとも、より不安定化するのか、厚生労働省の監督能力が強く問われる改正と言えるでしょう。