近年、急増中の「老老介護」の実態と対応策を知る

今や、4軒に1軒が高齢者のみの世帯に

65歳以上の人口が総人口の21.5%に達し、日本が超高齢社会に突入したのは2007(平成19)年のことでした。以来、その推移は年ごとに増加傾向にあり、内閣府が発表した平成28年版「高齢社会白書」では、2015(平成27)年10月1日現在の総人口1億2,711万人のうち、65歳以上の高齢者は3,392万人と、実に26.7%に及んでいます。

さらに要介護者又は要支援者と認定された人(以下、要介護者) は、2013(平成25)年度末で569万1,000人となり、2003(平成15)年度末から198万7,000人も増加。介護者は配偶者をはじめとした、同居している家族が60%以上で、年齢では男性の69.0%、女性の68.5%が60歳以上です。

また、2015(平成27)年の「国民生活基礎調査」によれば、同年6月4日時点での全国の世帯総数5,036万1,000世帯に対して、65歳以上の人がいる世帯は2,372万4,000世帯(全世帯の47.1%)で、65歳以上の高齢者のみの世帯は1,271万4,000世帯(同25.2%)。いわゆる「老老介護」の状態にある世帯が相当数あることをうかがわせます。

要介護者の増加に伴い、介護者の高齢化も進む

もう少し細かく介護者の内訳を見てみると、配偶者が26.2%、子が21.8%、子の配偶者が11.2%で、性別では、男性が31.3%、女性が68.7%となっています。とりわけ、妻・娘・息子の嫁に介護の負担が大きくのしかかっていることが見てとれるでしょう。

調査年は異なりますが、2013(平成25)年の「国民生活基礎調査」で実施された介護に関する調査によれば、要介護者と介護者が共に75歳以上というケースは、高齢者のみの世帯のうち26%もの高い割合を占めています。また、日常生活で介護を必要としない健康寿命が、男性71.19歳、女性74.21歳であるのに対して、平均寿命は男性80.21歳、女性86.61歳。その差は男性で約9年、女性で約12年もあります。

もっとも、健康寿命を超えても元気な方は少なくはありませんし、平均寿命までの年数と、介護を必要とする期間がイコールとはいいきれませんが、さらに平均寿命が延びると予測されている今後、要介護者の数が増加していくことは間違いありません。

このようなデータからも、「老老介護」の割合のさらなる拡大化が読み取れると思います。

未婚化・少子化も状況に追い打ちをかけている

さらに、生活様式や価値観の変化に伴って、二世代同居や三世代同居が減少していることも拍車をかけています。子供たちが巣立ち、夫婦だけとなる家庭も珍しくありません。リタイヤした後は、夫婦で気兼ねなく、第二の人生を楽しみたいというケースもあるでしょう。そういう世帯が「老老介護」になっていくというのは、極めて自然な流れなのです。

しかも、「老老介護」は高齢者夫婦ばかりではありません。近年増加中の、俗にパラサイト・シングルと呼ばれる、親と同居している未婚者も、やがては「老老介護」の当事者に変わりかねないのです。

もちろん、同居していなくても、兄弟姉妹がいなければ、いざ親が要介護となった際、実家に戻らざるを得なくなるでしょう。少子化も将来の「老老介護」予備軍を増やす原因といえそうです。

85歳の親を65歳の子が介護する、93歳の親を70歳の子が介護するといった、親子での「老老介護」も今後はさらに増える可能性が高いでしょう。

在宅希望で他人の世話になりたくないとの声も多い

介護と一言で表現しても、要介護度によって状況はかなり異なってきます。

2015(平成27)年4月1日から、特別養護老人ホームへの入居基準から外された要介護度2を例に挙げると、食事や排泄、入浴、衣類の着脱などに一部ないしは全面的な介助が必要で、立ち上がりや歩行に何らかの支えを必要とする、と定義されています。さらに、問題行動や理解力低下といった認知症の症状も加わります。実際、設備の整っている介護施設の若い職員であっても、介助作業は肉体的に大きな負担であり、肩こりや腰痛などに悩まされていることが少なくないのです。

もし、自宅で行うことになったらどうでしょうか。経済的に余裕があり、何の心配もなく介護サービスを依頼できるならともかく、大半は、設備を導入するためのリフォームもできない環境や経済状況で、家族自らが担わなくてはなりません。肉体的にはもちろん、精神的な負担も大きいでしょう。

その上、高齢者の皆さんの中には「他人の世話にはなりたくない」という思いから、妻や夫、親族以外の介護を拒否する方も多くいらっしゃるようです。

前出した2013(平成25)年の「国民生活基礎調査」では、要介護者のいる高齢者世帯の59%が訪問系サービス、40.6%が通所系サービスを利用しているのに対して、20.4%もの世帯が1ヵ月のうち1回も介護サービスを「利用しなかった」という調査結果が出ています。

利用しなかった理由としては、「家族介護でなんとかやっていける」「要介護者本人だけでもなんとかやっていける」という回答が多くを占めていますが、「他人を家に入れたくない」といった回答も少なからずありました。また、「日常生活を送る上で介護が必要になった場合に、どこで介護を受けたいか」という問いに、男性の42.2%、女性の30.2%が「自宅で介護してほしい」と答えています。

これは、「介護老人福祉施設に入所したい」…男性18.3% 女性19.1%、「病院などの医療機関に入院したい」…男性16.7% 女性23.1%といった回答を大きく上回っています。

そういった気持ちも理解できないわけではありませんが、それが出口の見えない状況を生み出していることも事実。そして、介護者といえども老いに抗うことはできません。日常の介護に疲れて、実の親を、長年連れ添った配偶者を…という事件が報道されることは珍しくありませんが、おそらく、上記に挙げたような数々の要因が背後にあることは共通しているでしょう。

無理のない在宅介護を続けていくには

「老老介護」に限らず、在宅介護をする上で、何よりも大切なのは、介護者である方々が休息をとること。そのためには、訪問介護の他、比較的、料金の手ごろなデイケアやデイサービスなどの利用を在宅介護と組み合わせることが欠かせません。その時間を自身の休息に充てるようにしましょう。

周囲に相談できる友人や親族が入れば、見栄を気にせず、話を聞いてもらうのも一つの方法です。別の視点からの知恵や、何らかの支えを求めることは決して恥ではありません。自分一人で何もかも抱え込むことは、ベターでもベストでもないと心がけましょう。

さらに、市町村等各自治体が設置している「地域包括支援センター」の活用も、在宅介護をする上で頼りになるはずです。その窓口では、介護を受ける高齢者の方々が住み慣れた自宅や地域で生活できるよう、必要な介護サービスや保健福祉サービスの他、日常生活支援などの相談に応じてくれます。しかも、介護に関する相談に対してワンストップで対応している点も便利です。各センターには、介護/主任ケアマネージャー、医療/保健師、高齢者の権利擁護/社会福祉士といったスペシャリストが配置されており、それぞれの専門性を発揮しつつ、チームでの連携で対応していく体制が整っています。

それ以外では、居宅介護支援事業所も心強いサポートを提供してくれます。ここには、ケアマネージャーが常駐し、要介護者に対するケアプランの作成や、介護サービスを受けられる事業所の紹介をはじめとして、介護に関する全般的な質問・相談を受け付けています。

繰り返しになりますが、今後、在宅介護を受ける高齢者が増える可能性は否めません。そして、介護者も年齢を重ねていきます。一人で悩まず、こういった機関に足を運ぶことが、まさに解決への第一歩となるでしょう。将来、ご自身が当事者になる可能性があれば、まずは窓口へ話を聞きに行かれてはいかがでしょうか?