日常に潜む情報通信技術の罠-同じで意味が違う IT部隊の巻-

今月もまだまだ続く同じで意味が違うシリーズで、「IT*1部隊」を取り上げます。
ウクライナ侵攻が始まる前はIT部隊といえば、ニュースなどの見出しで言えば
 「今こそ強いIT戦略部隊
 「3年後までにIT部隊XX人に倍増
などのように、企業におけるITを担う専門部隊を指すことが多かったです。
一方で、ウクライナIT軍(IT Army of Ukraine)の活躍がニュースで報道されるようになり、戦争におけるIT部隊の役割が表舞台に出るようになってきました。

企業のIT部隊

社内で使用するコンピュータやネットワーク、そしてエクセルなどに代表されるオフィスソフトなどのライセンス管理やセキュリティなどを行う守りの部隊というのが、情報システム部門に対する多くの方のイメージだと推測します。
それとは別にわざわざIT部隊を増員するということがなぜ企業にとってニュースリリースのネタになるのでしょうか?
その答えは現在の製造や流通、決済がITを基盤としているということです。具体的な例は、7月2‐4日にかけてのKDDIの通信障害に見ることができます。au、UQモバイル、povoなどの通話だけでなく、データ通信も使えなくなりました。それだけでなく、トヨタ自動車、スバル、マツダ、スズキのコネクティドカー*2サービスも使えなくなりました。また、スマートフォンでの決済も、モバイルSUICAなどの交通系の決済はスマートフォン本体に残金が記録されていて使えたのですが、au PAYなどの決済はクラウド側と接続できず、使用不可でした。クロネコヤマトの配達者のスマートフォンがだめで、荷物追跡システムが使えず、大混乱でした。また別の事例ですがトヨタ自動車の部品調達先がサイバー攻撃を受け、部品が滞り工場停止に至ったこともありました。企業の経済活動は、サプライチェーンマネジメント、製造、流通、決済等、IT基盤が横断的に支えています。つまりITは守りではなく、ITを武器とした戦略的な経営が必須となっており、それを担うのがIT部隊な訳です。
そして
IT部隊を倍増する企業→DX*3に積極的な企業→株価によい影響
ということで、ニュースリリースになるわけです。ちなみに、IT部隊を構成する人材の給与は高騰しているため、多くの企業はIT部隊専門の子会社を設立することが多いのです。

ハイブリッド戦争におけるIT部隊(ウクライナの事例から)

従来の戦争は、兵器などの軍事的手段が主でしたが、現在では、サイバー攻撃などの非軍事手段も合わせて使われるハイブリッド戦争になっています。例えば、4月23日にロシアがウクライナ政府機関に大規模なサイバー攻撃を行い、アクセス不能にしたのもその例です。一方のウクライナは2月27日(日本時間)にIT軍設置をフェドロフ第一副首相兼デジタル改革担当相がツイッターで発表しました。IT軍はロシア軍へのサイバー攻撃などを担う攻撃部隊と、ロシアのハッカーからウクライナの水道や発電所などのインフラを守る防御部隊があるようです。ウクライナは東欧のシリコンバレーと呼ばれIT技術者のレベルも高い国です。

デュアルユースについて

このようにITは、企業の経済活動などの平和目的と、ウクライナIT軍のように軍事目的の双方に使える技術です。つまりデュアルユースな技術です。実はITというときの情報はInformationですが、外務省などの情報機関の情報はIntelligenceです。Informationは生の情報で、Intelligenceは加工された情報を意味しています。この言葉自体もデュアルユースな情報について書かれたものがあります*4ので、興味があれば参考にしてください。

*1 IT(Information Technology):情報技術、現在ではICT(Information and Communication Technology):情報通信技術とほぼ同異義に用いられています。
*2 コネクティッドカー:インターネットの通信機能を備えた自動車のこと。
車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータをセンサーにより取得し、ネットワークを介して集積・分析する。具体的には、最新の道路状態を取得して最適なルートを算出したり、車両にトラブルが発生した際にしかるべきところに連絡してくれたりする機能が実用化されている。
*3 DX:デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
*4 小野厚夫、45周年記念特別寄稿:情報という言葉を訪ねて、 情報処理 Vol.46, No.5, pp347-351, 2005-04-15.

次回に続く・・・


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。