日常に潜む情報通信技術の罠 -同音異義語クラウド(Crowd)の巻-

先月はLのCloudを取り上げましたが、今月はRの方のCrowdを取り上げます。雲(cloud)の向こうにいる群衆(crowd)の力をいかに借りるかが、crowd serviceの肝で、一般的なものとしてクラウドファディングcrowd fundingとクラウドソーシング(crowd sourcing)が代表的なものです

クラウドファンディング:ネットを使ってもCrowd Funding

図1 自由の女神はクラウドファンディングを使用
(いらすとや)

crowd+fundingからなる造語で、多数から少額資金を集め、財源の提供や協力を行なうものです。現在はインターネットを駆使して、大学も研究開発資金を集めるのに利用しています。
その歴史は古く、1884年自由の女神の台座を作る資金が不足したときに、ジョーゼフ・ピュ-リツァ―が自身の新聞で台座への寄付を呼びかけました。10か月で10万ドル(およそ12万5000人が1ドル以下の寄付をおこなったそうです)を集めました。まさに「塵も積もれば山となる」ですね。これ以外にもロックバンドの遠征費用や、映画製作費用、心臓移植費用など多くの資金収集がクラウドファンディングにより行われています。

クラウドファンディングには大まかに分けて以下の3種があります。
寄付型
金銭リターンなし(プロジェクトによっては、お礼として手紙・サービス特典・物品等を受け取ることができます。)
投資型
金銭リターンあり
購入型
プロジェクトが提供する何らかの権利や物品を購入することで支援する。購入型では目標金額の達成・未達成に関わらず、購入が1件でも発生した時点で成立とみなすAll in方式であれば、資金返金は不要です。が、購入してもらえるものがあることが必須となります。

All in方式以外、一般的には期日までに目標価格が集まらないと、集めた資金はそれぞれ提供者に返金されます。
成功報酬でクラウドファンディングを支援するビジネスもありますが、講習費用などをとられる詐欺もあるので、お気をつけください。

クラウドソーシング:ジョブ定義と名ばかり事業主

図2 いらすとやのクラウドソーシング

crowd+sourcingからなる造語で、不特定多数の人に業務を委託するという新しい雇用形態です。
従来のアウトソーシングが特定される人への業務委託であったのに対し、不特定多数であることが特徴です。広義では、雇用関係なしに不特定多数が共同で行うプロジェクトも含んでいます。従来からあった内職が、PCとネットワークにより発展したともいえます。コロナ禍以降、在宅勤務が普及し、移動に費やしていた時間を、複業に充てて、クラウドソーシングで仕事をするようになったという方もおられると存じます。
2018年NASAは「民間によるクラウドソーシング」により最低でも5つの系外惑星がK2-138*1にて発見されたと発表しました。*2これは広義の不特定多数によるプロジェクト=クラウドソーシングにあたると思います。
狭義のクラウドソーシングでは、1文字いくらで請け負うWeb記事執筆のようなものがあります。0.1~0.5円程度の安価な案件が「名ばかり事業主の温床になる」と、労働力の買い叩きが問題となっています。
大手企業の活用事例を見ると、ボーイングは機体組立に、P&Gは商品開発にクラウドソーシングを活用しているようです。だったらうちの会社でもクラウドソーシングを活用できないかと考える方もおられるしょう。その時の課題はジョブ定義(仕事の内容の明確な記述)ができるかどうかです。
Web記事など1文字いくらで計算できるようなジョブは多くありません。不特定多数が誰でも参加し、一定の基準で成果を出せるレベルのジョブまでに細かく切り分け、定義することが必要となります。日本でもジョブ型に移行しつつあり、少しずつ仕事の内容が見直されているので、これを機に、クラウドソーシングに移行できるジョブも見いだせるかもしれませんね。

*1 K2-138 または EPIC 245950175 は、地球からみずがめ座の方向に約600光年離れたところにある恒星で、市民科学者によって発見されたものとしては最多の6個の太陽系外惑星を持つことで知られている。(Wikipediaより引用)
*2 https://sorae.info/astronomy/2018_01_12_cloud.html


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。