日常に潜む情報通信技術の罠-海外出張の落とし穴の巻-

今回はいつものシリーズとは別に、筆者が見事にはまった海外出張での情報通信技術の罠を紹介したいと存じます。
3年半ぶりの海外出張でした。9月7日から日本入国時のCOVID19陰性証明が不要になり、予約していた検査(250ドル)も解約できて、喜んで9月11日に出発しました。

空港まで:第1の情報通信技術の罠

水天宮にある東京シティエアターミナルから成田空港までは従来通り、リムジンバスを利用しました。コロナ禍の影響でバス時刻表がどうなっているかと事前にスマホで確認しました。その時見た時刻表では10分毎に出ていました。そのつもりで余裕をもって東京シティエアターミナルに着いたのですが、まず乗り場が3階から1階になっており、羽田空港と成田空港の両方が一つになっていたのです。さらに昼の時間帯は1時間に1本になっており、結局30分待ちました。PCで再度調べなおしたら臨時時刻表になっていました。では筆者がスマホで見た時刻表は何だったのでしょうか?これは幻だったのでしょうか?いいえキャッシュ*1 だったのです。これが第1の情報通信技術の罠です。

図1 情報通信技術を使いこなせず罠にはまる、使って罠にはまる

以前にも新横浜駅までのバス時刻表として参照していたのが、キャッシュされていた時刻表であるのに気づかず、古い時刻表を信じて、新幹線に乗り遅れそうになったことがありました。
必ず公式のWebサイトを更新(更新方法はブラウザ・端末により異なります:*2参照)して参照することが重要なのです。焦っていて時刻表の日付を確認しなかったことも問題でした。
しかも9月11日出発に対して、9月9日から成田便は減便になっていたのです。直前に最新時刻表を確認しなかったのが悪いのですが、まずここで味噌がつきました。

乗り継ぎのニューアーク空港で:第2の情報通信技術の罠

本当はワシントンDC直行便に乗りたかったのですが、ANAは運賃が高いとUnitedでニューアーク乗換(待ち時間4時間)になりました。空港に着いた現地自国16時過ぎに乗り継ぎ場所にあるUnitedのカスタマーセンターで確認したらゲートを教えてくれました。教えてもらったゲートの近くで待ちますが、表示が出ません。ゲート隣のカスタマーセンターには職員がいません。一つ隣のゲートの職員に聞くとPADを見て「そのゲートでよい」といわれました。筆者以外も数人の旅客が、通りかかる職員に聞き、再度またゲート近くに腰を下ろします。もし遅れるようなら、メールに案内が来るはずと思っていました。が、出発時刻になっても、ゲートに職員はあらわれません。ゲートの奥にパイロットが二人座っていたので聞くと、一人がたまたま日本人で「本日は到着便が遅れているからね」と言いながらスマートホンで調べてくれます。そして「DC便はキャンセルになってますね。明朝のフライトしかないですね。カスタマーセンターで聞くにもしまっているし、、」とのことです。20時を過ぎているし、カスタマーセンターには人はいないしで、Unitedのラウンジの受付に相談しました。そしたら「キャンセルメールは16時過ぎに出ている。XXXのアドレスに」といわれました。そのアドレスは職場のメールアドレスですが、筆者のではなく秘書さんのメールアドレスです。携帯電話の番号は登録されていないということです。仕方なく翌日の早朝便を予約してもらい、United 提供のホテルを予約してもらいます。日本は8時過ぎになったので秘書さんに事情を説明し、宿泊予定のワシントンDCのホテルの到着が遅れることを旅行エージェントに連絡してもらうようにお願いしました。そして秘書さんあてにメールが着いていることも確認しました。これが第2の情報通信技術の罠です。
 今回は立替払いを避けるということで旅行エージェントにワシントンDCのホテルと国内便を予約してもらったのですが、13時間の時差のある日本の秘書さんに連絡が行くのではなんの役にも立たないのにも関わらず、連絡先に秘書さんのメールアドレスを登録していたのです。
 Unitedが手配したホテルにたどり着くには、空港の駐車場まで電車で行き、次々に来るシャトルバスの横書きを見て目的のホテルかどうか見ないとならず、それはそれで大変でした。ようやくホテルにたどり着き、UnitedのWebページから、連絡先のメールアドレスや携帯電話を登録し直します。すると嫌になるほどUnitedからSMSが届くようになりました。
 昔の流儀ではなんでも秘書さんが電話やチケットなど仲介するようになっていました。が現在は、まず在宅勤務が主となっているので、チケットなど紙ベースは役に立たず、結局スキャンしてPDFにしてメールで送ってもらうわけです。また、フライトの連絡先も搭乗者自身にしないとなりません。こういう細かいワークフローの変化に追随できないと、今回のような情報通信技術の罠にはまることになります。
 気になったのは、Unitedのカスタマーセンターやゲート職員による確認では、フライトのキャンセルの表示がされず、同航空のパイロットによる確認ではキャンセルが確認できたことです。データベースのアクセス権の差なのかどうか推測するだけですが、登録したメールアドレスには連絡が来ているので、それを信じるしかないのでしょう。

 翌日ワシントンDCのオフィスで仕事を終え、悲惨なキャンセル話をすると、「アメリカの航空会社は人手不足が深刻で、国内便でも出発3時間前には着くようにと、日本からはJALやANAの利用をアドバイスしている。10月はパイロット不足で延べ3万便が欠航するといわれている。」とのことでした。どこかのコマーシャルではないですが、「そういうこと早く教えてよ。」というのが正直な感想でした。

アトランタ空港で

3時間前のアドバイスをもとに、アトランタの国際会議に移動しました。
滞在中は13時間時差の中で、いくつか日本とWeb会議をしました。帰国の日も、アトランタ空港に早めに行って7時からWeb会議をしていました。日本国内では移動時間がなくできるWeb会議はありがたいと思っていましたが、海外出張しても日本時刻に合わせてWeb会議に参加することになり、これも働き方改革を逸脱する情報通信技術の罠といえます。
 Web会議後あわてて乗った日本への便は、パイロットもフライトアテンダントもみな筆者より年上の感じで、人手不足の深刻さを実感しました。

 次に海外出張するときには立替払いを嫌がられても、自分で予約して着実にメールやSMSが届くようにするとともに、直前に最新の時刻表を確認せねばと肝に銘じました。

(2022年9月)

*1 キャッシュ:Webページのデータを保存しておいて、次に同じページを開いたときに素早く表示できるようにする仕組みです。
*2 webサイトを更新(リロード)する方法:
Windwos PCの場合
chrome・Edge・IE→「F5」キーをクリック
Firefox→「Ctrl」+「F5」キーをクリック
Mac PCの場合
Safari・Opera→「Command」+「R」キーをクリック
Chrome・Firefox→「Command」+「Shift」+「R」キーをクリック
モバイル端末の場合
ブラウザのメニューから「↻」のアイコンを選んでクリック


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。