日常に潜む情報通信技術の罠-同じなのに意味が違う Gの巻-

同じ言葉を話しているつもりでも違う意味にとられているということは、オフィスでも家庭でもよくあります。スマホやPCなどで皆さんが何気なく使われている日本語入力でも同様です。
日本語入力ではかなを漢字に変換する「かな漢字変換」という技術が使われていますが、これが登場する前には、コンピュータに入力できるのはキーボードから直接入力できる「英数字」か「半角カナ」(1バイトコード)だけでした。それがキーボードから入力された文字を変換するという「かな漢字変換」技術が生み出され、現在ではすべての人が母国語でメールやWeb閲覧が当たり前にできる現在の世界が実現されました。

「かな漢字変換」での一つの障害であったのが、発音が同じで意味が異なる同音異義語です。石、意思、医師など多くの同音異義語があります。
一方、同じで意味が異なるものには同音異義語の他に、同じ綴りで意味が異なる同形異義語があります。「疲れ」と「タイヤ」といった異なる意味を持つtireなどがその例です。
このコラムではみなさんが日々遭遇されている同じなのに意味が違う言葉の罠について、時々触れていきたいと思います。今回は「G」について触れます。

同じなのに意味が違う Gの巻

2G、3G、4G、5G
皆さんはこの「G」をどのように読まれたでしょうか?

  1. ギガ派:2G(ニギガ)、3G(サンギガ)、4G(ヨンギガ)、5G(ゴギガ)
  2. ジー派:2G(トゥジー)、3G(スリージー)、4G(フォージ―)、5G(ファイブジー)

読みは微妙に違うかもしれませんが、読者の皆さんはギガ派かジー派かどちらかと推測します。

●ギガ派

ギガ派はスマホなどでのデータ容量やデータ通信量を表すギガバイトGB*です。バイトは半角英数文字1文字分のデータ量にあたります。CMなどで「ギガが足りない」「ギガ繰越」とよく連呼されていますが、その時はデータ量であることを示すバイトBが省略されています。
コロナ禍で対面講義がオンライン講義になり、スマホを使うとあっという間に毎月のデータ通信量の上限(例えば6GB)を超えて、通信速度が遅くなって講義が受けられなくなって困ったという状況も発生しています。
このデータ通信量はスマホ上部のアンテナマークで接続している携帯電話会社との通信を使っている場合の制限です。スマホ上部の扇形で接続しているWi-Fiルーターや店舗などでの無線ルーターで写真や動画をやり取りする場合には、データ通信量の上限には縛られません。
またスマホカメラの高解像度化で写真のデータ量が増えた時には、データ通信量ではなく、スマホに保存できるデータ容量が課題となります。この場合の上限は例えば128GBと、データ通信量に比べて2桁大きなサイズとなっています。

●ジー派

もう一方のジー派のGは通信方式に関わるもので、移動通信システムの世代(generation )を表します。3Gは第3世代でNTTドコモのFOMA(2026年終了予定)や、KDDIのCDMA 1xWIN(2022年3月修了)などがあります。3G終了を機にガラケーからスマホに切り替えた(替える)方も多いのではないでしょうか?
最近は4Gが中心で、さらにその先の5Gが使われています。スマホ画面上部にあるアンテナマークの右脇あたりに4Gとか5Gと表示されることもあります。1Gではアナログだったのが、2Gからデジタル方式になりました。3Gでは通信速度が約14Mbps(1秒間に14百万ビット)だったのが、4Gでは100Mbpsと約70倍の高速・大容量化を実現してきました。5Gではそれ以外に、クイックレスポンス(低遅延)、野外コンサートなどに使える同時に沢山の端末の接続(多数端末接続)という新たな機能が追加されています。5Gでは米中の覇権争いで経済安全保障にまで発展しており、半導体の調達など今後多くの企業が知恵を絞って対策せねばなりません。

同じジーGでも、好きなGは車のコーナリングのGという方もおられるでしょう。この場合のGは重力により生じる加速度の重力加速度(gravitation acceleration)です。
日本語を話しているから相手に通じていると思っていてもなかなか通じない、話がかみ合っていないとき、同じ意味で使っているのかといぶかることも大事です。が、結構難しいものです。

(2022年4月)

注*:ギガGは、通常の使われ方では、キロK( 千倍、10の3乗)、メガM(百万倍、10の6乗)に続くもの、10億倍、10の9乗にあたります。ギガの上はテラT(1兆倍、10の12乗)、ペタP(1000兆倍、10の15乗)となります。しかし、これらの後にBがつくと
1KB=1024B、1MB=1024KB、1GB=1024MB、1TB=1024GB、1PB=1024TB
となります。1024は2の10乗でコンピュータ的にはきりのよい数字なのですが、コンピュータの世界では、KからM、MからGは単なる1000倍ではなく、1024倍ということなので、同じGでも意味が違っているわけです。
しかし、最近のハードディスクなどでは 1KB=1000Bで計算している場合もあり、なかなか同じ意味に収束しません。


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。