日常に潜む情報通信技術の罠 -同音異義語CAの巻-

今年は10月10日がいつも通りスポーツの日の祝日に戻りました。昨年はスポーツの日が東京オリンピック開幕に合わせて移動され、無事に東京オリンピック/パラリンピックが終了したと思っていたところ、今年に入って降ってわいた東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織員会の不正事件。開催に尽力された多くの方にとって、後味の悪いものになってしまいました。
今回の不正事件でもウクライナ侵攻でも、結局被害を受けるのは、私利あるいは政治的に動く上層部ではなく、実際に現場で働く人や市民であるのは、本当に残念なことです。

ところで、今月はいつもの同音異義語シリーズに戻って、「CA」を取り上げます。実はCAにはいろいろなものがあります。それらを読者になじみのありそうなものから紹介します。

CAその1:客室乗務員

図1 「いらすとや」の笑顔のCA

CAというと多くの方はcabin attendant(客室乗務員)を思い浮かべると思います。ちなみにこのCAは和声英語で、日本以外では通じません。英語ではcabin crewまたはflight attendantです。
 いつもプレゼン資料作成でお世話になる「いらすとや」で「CA」で検索すると、図1のような笑顔のCAも出てきました。CAが笑顔の若い女性という連想は日本の航空会社の乗客にしかないのではないでしょうか。海外航空会社だと、客真乗務員は年齢も高く、屈強で、男性も多いです。図1にあるような先入観で対応すると間違います。

CAその2:守秘義務誓約書

CAその2は不動産業界で使われているconfidential agreement(守秘義務誓約書)です。投資用不動産物件を購入するときなどに、入居テナントの名称や賃料など個人情報などの機密情報を知るために交わすのが守秘義務誓約書です。合併買収M&A(Merge and Acquisition)の相手方やM&A仲介会社とかわす守秘義務契約書もCAと呼ばれています。
それ以外ではNDA(non-disclosure agreement)といわれています。筆者もシリコンバレーにジェスチャーデバイスの売り込み行っていたときに、デモの後、技術的な詳細を知りたいといわれた時にはNDAを交わして、交渉を進めていました。
守秘義務誓約書を交わさずに安易に情報提供すると、気づくと相手が先にヴェンチャーキャピタルから資金を得て先に開発されてしまう危険性が大なので、要注意です。また守秘義務誓約書を交わすのに時間がかかると、相手先が興味を失ってしまうので、日本での商慣習との違いを意識してその場で買わせる準備をしておくことも重要です。

CAその3:認証局

のCAはcertificate authorities(認証局)です。ここからようやくIT業界の話になります。

図2 鍵マークとhttps

読者が日頃アクセスされているウェブサイトですが、ブラウザの上部のアドレスバーに表示されるURL(uniform resource locator)アドレスの先頭には
http://
https://
があります。http(hyper text transfer protocol)とhttps(hyper text transfer protocol secure)とでは、最後にs(secure)があるかないかの違いがあります。認証局がウェブサイトなどに対してデジタル証明書を発行し信頼できることを証明していれば、最後にsがつき、httpsの前に鍵マークがつきます(図2 )。世界には100以上の認証局があり、ブラウザとサーバー間のデータを盗聴(スニッフィング)されていないかを検証し、正当なウェブサイトだけに証明書を出しています。
検索して到達したウェブサイトで、「保護されていない通信」とか「安全ではありません」とメッセージが出るときは、デジタル証明書がないウェブサイトです。こうしたサイトは、改ざんされている危険性もあり、パスワードなどを盗まれる可能性があるので、個人情報の入力については要注意です。

CAその4:サイバネティック・アバター

今回紹介する最後のCAはcybernetic avatar(サイバネティック・アバター)です。サイバネティック・アバターとは人の代わりにロボットや3次元映像等のアバターなどを用いて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するものです。内閣府の9つのムーンショット目標の目標1です*1。
ムーンショットプログラム目標1は、2020年度から3プロジェクトが開始し、2022年にさらに4プロジェクトが加わりました。筆者もサブプログラムディレクターとしてムーンショット目標1に関わっています。
ムーンショット目標1では、サイバネティック・アバターの基礎技術の研究開発と同時に、企業と共同して、カフェや保育園、ショップなど様々な場所でサイバネティック・アバターを用いた実証実験を行っています。単に技術の実証を行うだけでなく、法律家なども加わり、未来生活での種々の働き方などの課題を明らかにし、社会参加を促進し、エンゲージメントを高める生活の在り方を探っています。また、ウェブサイトと同様に、サイバネティック・アバターの安全性・信頼性を確保できる認証制度や通信システムなど信頼性の高い社会デザインも課題として検討しています。

図3 サイバネティック・アバター生活
https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal1/index.html
図4 サイバネティック・アバターカフェで働く DAWN ver.β
https://dawn2021.orylab.com/

実際に重度のASL患者が、図4に示すようなサイバネティック・アバターを寝たまま遠隔から操作して、東京にあるカフェでお客様と会話して働いています。カフェはいつも予約でいっぱいです、多様なお客様を相手に、種々の障がいを抱える人たちが、サイバネティック・アバターを使って働く喜びを得ています。

保育園に置かれたサイバネティック・アバターを使って保育園児と会話する高齢者は、その会話から元気をもらえると喜んでいます。

2020年からプロジェクトを開始している3人のプロジェクトマネジャー(PM)(石黒PM、南澤PM、金井PM)のウェブサイトを注記しました。それらのサイトから、現在進めている技術などの動画を見ることができます。

CAにはこのほかに
生活年齢 Calendar Age
複素解析 Complex Analysis
セル・オートマトン cellular automation
継続的監査 continuous auditing
会話分析 conversation analysis
などまだまだいろいろな同音異義語があり、それぞれ情報通信技術に関連があります。会話分析は今回紹介したサイバネティック・アバターにも使われている技術です。まだまだ世界は広がります。

(2022年10月)

*1 JSTの目標1:https://www.jst.go.jp/moonshot/program/goal1/index.html
*ムーンショット目標1プロジェクトマネージャーwebサイト:
 石黒PM:https://avatar-ss.org/
 南澤PM:https://cybernetic-being.org/
 金井PM:https://brains.link/


筆者紹介
土井 美和子氏

国立研究開発法人情報通信研究機構 監事(非常勤)
東北大学 理事(非常勤)
奈良先端科学技術大学院大学 理事(非常勤)
株式会社三越伊勢丹ホールディングス 取締役(社外)
株式会社SUBARU 取締役(社外)
日本特殊陶業株式会社 取締役(社外)

1979年東京大学工学系修士修了。博士(学術)。同年東京芝浦電気株式会社(現㈱東芝)総合研究所(現研究開発センター)入社。博士(工学)(東京大学)。以来、東芝にて35年以上にわたり、「ヒューマンインタフェース」を専門分野とし、日本語ワープロ、機械翻訳、電子出版、CG、VR、ジェスチャインタフェース、道案内サービス、ウェアラブルコンピュータ、ネットワークロボットの研究開発に従事。

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